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降水確率90%だそうです。 自分の誕生日に休日出社というだけでも気分優れないというのに、 その降水確率はなんだと言いたい。ぶーぶー。 『蒼黒ふたり 〜 FINAL FANTASY XI』 -------------------------------------------------------------- 日中においてもその場所はなお薄暗く、生ある者の介在を拒む印象を受けるカダーバの浮沼。ここを訪れるのは初めてのことではないが、いつ来ても生きた心地はしない。それが獣人ラミア族と配下であるアンデッドモンスターが多く闊歩する地域であるからということを除いても、鬱蒼と茂る群青の森や近寄りがたい瘴気を放つ沼のせいであることは疑いなかった。 そんな鬱々とした世界の片隅で、今しがた襲い掛かってきた樹人族を易々と切り伏せ、横たわる死骸の傍で佇むタルタル族の少年がいる。出る幕さえなかったヒュームともエルヴァーンとも判別つかない青年は不思議そうに尋ねてみた。 「どうした?」 すぐに返答はなかったが、しばらく間をおいて、 「……オイラさ」 「うん?」 「強くなりたいんだ」 「知ってる」 「もう二度と、アイヴィスが泣いたり、悲しんだりしなくて済むように強くなりたいんだ」 「そうだな」 矢継ぎ早に繰り出されたハイラルライルの言葉だったが、あえなくそこで停止してしまった。つまり、それ以上は彼自身、答えを見つけ切れていないという証左なのだろう。 「……それってさ」 「うん」 「こうやって、モンスターを倒し続けてれば、なれるものなの……?」 「あながち完全に間違いだと、言い切れないとは思うが――」 しかし、そんなものはセルリアンにだって分からない。別にそれをむやみやたらに吹聴したり、誇張した覚えはないが、地上最強種の自分がずっとシヴィに寄り添っていれば、彼女は一生涯、悲しみや苦しみといった事象から無縁でいられるのかといわれれば、間違いなくそんなことはない。 自分でさえ、そんなことは知らない。だから答えようがない。 「……ハイラルライルはさ」 「うん」 「アイヴィスの前では、弱気な少年じゃないとダメなのか?」 「え」 「ハイラルライルが主張を始めると、アイヴィスがお前のことを嫌いになると思うのか。そんなことないだろ」 結局―― 始まりがそうだったから、それ以外の立ち位置を若いふたりは知らないのだ。 「でも、どうすれば」 「簡単さ。身をもって確かめてみればいいよ。シヴィからハザルム試験場に向かうという連絡があった」 「それって、いつの話?」 「一昨日かな」 「……だから、急にカダーバの浮沼に行こうだなんて言い出したんだな」 「鋭いねぇ」 「家出も一週間足らずで終了? なんだか、オイラ、かっこわる」 「ま、展開速くていいじゃないか。それとも一年も二年も離れたまま暮らすか?」 「うー……」 「ドラマチックな再会を期待していたのならご愁傷様。だけど、体裁気にして手遅れなんかになるよりは、よっぽどか良い」 そう。つまらない意地を張って、一緒にいられる時間を棒に振るよりかは随分とましだ。 知っている者がいるのであれば、セルリアンだって逆に教えて欲しい。 大好きな人がいつまでも笑っていてくれる方法を。 カダーバの浮沼、過去に流行り疫病に冒されて街ごと破棄されてしまったナシュモの西方、今や誰の墓なのかも分からない墓地を越えた先、人知れずひっそりと佇む洞穴がある。それこそが「事故」のために封鎖されてしまったというアトルガン皇国の秘密実験所、ハザルム試験場への入り口。 「本当に、これが?」 思わず、そんな疑問が口を突いて出てしまうほど、似つかわしくない場所だった。閉鎖され、人が寄り付かなくなっていても手入れだけは定期的に行われていたのか、岩盤に松明が備え付けられており最低限の明かりは確保されている。曲がりくねった地底への道を進むと、少し開けた空間に出て、その先には赤錆が浮かんだ一枚の鉄格子。 「ハザルム試験場の最奥には、ヴァルクリンドと呼ばれる冥界への入り口があるという。異界の風が吹く霊験あらたかな場所というのは、おそらくそこであろう」 もっとも、アレキサンダーの召喚に何故そのような場所が必要なのかは想像できぬがな。と、グルゴアは付け加えて、懐からくすんだ真鍮の鍵を取り出す。封鎖された秘密の場所というからには、皇国で保管されていたそれをどうやってかくすねて来たのだろう。 鍵が差し込まれて、鉄格子が開く。長年に渡り、外界とを隔ててきたその鉄格子が開かれた瞬間、ぶわっと、生暖かい風が全身に吹き付けてきた。隙間だらけの鉄格子の前では感じなかった違和感が一斉に押し寄せてくる。 「ふむ。これだけ錆び付いている割にはあっさりと開いたな。やはり、先客がいるようだ」 「そして、また施錠したか。律儀な阿呆め」 鉄格子の向こう、更に続く暗がりの通路へ一番に潜り込んで行くズー・ブシュ。 「この先に――」 少なくとも、ハイラルライルの父親はいる。 「ガッサドも来ているだろう。あの鉄皮の顔面、叩き割ってやる」 シェリルが息巻く。目が笑ってないから怖い。 「ハザルム試験場には戦乙女の名を冠する部屋がそれぞれあって、ウィングという単位で大きく分類すると三つに分かれる。第一ウィングから第三ウィングまで、部屋を最低三つ通過すれば、ヴァリクリンドまで到達できるはずだ」 「それぞれの部屋に刺客が待ち構えていたりしたら燃える展開ですねッ!」 暦が目をきらきら輝かせながら嬉しそうに、嬉しくないことを言い放つ。 ふと、目頭を押さえて笑っているのか、悲しんでいるのか、どちらとも判別つかない表情のシェリルに気付いた。 「なによ、どうしたの」 「いや……オバサンのその髪……」 ノナ・ストロベルを操ったラクリエにばっさりやられてしまったので、自分の手で適当に切り揃えてみたのだが、やはりこういうのに素人が手を出してはいけないと思った。自分の手で作り出したアンバランスを解消するため、更に短く切り揃えることになり、ショートカットもいいところまで落ち着いてしまっている。 「若作り若作りって散々茶化したもんだが、いざそれがなくなるとなー……本当にオバ」 管楽器で彼女の口を黙らせ、ズー・ブシュの後に続いた。暗く狭い通路はしばらく続いたがそれもすぐのこと。鉄格子があった部屋よりも更に一回りほど大きな部屋に出る。どうやら第一ウィングという場所らしい。 そして―― 「謀反は容易に想像できたことだが、遅かったな」 その部屋の中央に陣取るように、ひとりの青魔道士が腕組みをして立っていた。メガスジュバを身に纏い、腰には金縁で装飾が施された蒼い刀身のキリジをぶら下げているヒューム族の男。不滅隊の一切を取り仕切るその頂点、青魔道士ラウバーン。 シェリルが即座に、無言で暦の頭を叩いた。 「いったーい! 何するんですがお師匠様ッ!」 「お前が余計なことを言うからだ」 いまいち深刻になり切れない二人の横で、グルゴアが冷や汗混じりに呟いた。 「貴方が……一番手とは、な」 「何者にも邪魔はさせぬ。誰が一番だろうと問題はない」 「――今回の件、何故私には全容が知らされなかったのか、お聞かせ願いたい」 「未だ人にしがみつく愚かなグルゴアよ。私の不滅隊にはな、そのようなこだわりすら捨てられない者など不要なのだよ。魔を喰らい、魔に擬態し、敵を滅する。聖都守護を第一とする我々に人の心など不要。そうは思わないかね」 「不滅隊の中には、手にした力がたとえ魔のものであったとしても、聖皇様のためにと五蛇将や一般衛兵と変わらない志の者も多くいます」 「私に言わせれば、非常にくだらない。それが知らず知らずのうちに枷となり、力を押さえつける結果となる。グルゴア、貴様のようにな――お前は人であろうとする者たちの筆頭であったな。貴様が騙し通そうとしたタルタル族の少年、そして、その吟遊詩人の女。後々、私の後継者としても恥ずかしくない程の素質を秘めている良い逸材ではないか。貴様の目は節穴か?」 爛々と赤く輝く、もはや人のものではない瞳が私に向けられる。悪寒という表現だけではとても納得し難い。種としての本能が全力でラウバーンという人物を否定する。 「……中の国では、彼らのことを冒険者と呼ぶそうですな。ここ最近、彼らを傭兵として雇い、ザッハークの呪印を焼き付けて、青魔道士として登用する。いったい、貴方は何を考えておられるのか」 「無論、聖皇様と皇都のためである。この体もいつまで保てるか、知れんことだ。我らの国を守るため。この国の未来のためである」 「人としての未来を閉ざし、何が国の未来のためであるかッ!」 珍しくグルゴアが怒りを剥き出しにする。ズー・ブシュらを相手にしている時のものとは、明らかに違うものだ。 「だから、私は今回貴様を外したのだ。そのような生温い戯言をいつまで握り続けるつもりだ、グルゴアよ。よいか、重要なのはシステムである。どんな災難や困難からも、果ては、天災からでさえも、聖皇様と皇都を守り抜けるという強固なシステムだ。そうした庇護の下で、初めて人は人らしく安寧の生活を送ることが可能である。国やシンボルを失った愚かな人民どもが原野に放り出されても、それは無理な話であろうよ」 「他にも不審な点はあります。からくり士の娘からオートマトンを不当に徴収したり――」 「全てを語るまでもなく気付いてはいるのだろう。アレキサンダー復活のためである。バラバラに分かたれた海底のアレキサンダー体内において、残存物感情起伏倫理によりメソッド・オーバーライドが行われたアレはこの上ない素材となる。白き神の召喚により皇国の守護はより強固なものとなり、人民に更なる安寧をもたらすであろうな」 「では、マカイロカ捕縛の件は!」 「奴は確かに皇国へ散発的な攻撃を仕掛けに来てはいたが、わざわざ時間と人員を割くほどのものでもない陳腐なものであった。思えば、アレキサンダー召喚を切り札に、我々にコンタクトを取るためのものだったのかもしれぬな。そういう意味では、わざわざその企みに乗ってやったわけだが……事態がここまで及んだ今となっては、もはや奴が何を企んでいようが問題ではない。実力からしても奴が一番成功させる可能性が高いのは事実。せいぜい召喚を上手く取り仕切ってくれることを願うばかりだ」 「くっ……」 「グルゴアよ。システムに人の心や感情といった不安定なものは必要ないのだ。我ら不滅隊とはシステムの理想、究極形である。感情などは必ずや歪みを生み出す。青魔道士でありながら理想を体現できぬ半端者は、今ここで私が喰らってやろうか」 今、そう決めた。そう言わんばかりにターバンと口元を覆う薄黒い布の間の眼が笑った。人心の一切の介入を許さないシステムへの拘りを語った男にしては、似つかわしくない表情だった。いや、だからこそ、余計な不気味さを纏って私たちに大きく覆い被さろうとしている。 「ふむ……ただのヒューム族がこれほどまでの力を持ち得るとはな」 けして小馬鹿にするわけではないズー・ブシュの真摯な言葉だった。 長く冒険者を続けていれば、自分ひとりの力ではどうにもならないような強敵に遭遇することは、少なくはない。得てしてそれは人間種よりも屈強な獣人であったり、人並み外れたモンスターであったりしたものだが、不滅隊の長ラウバーンはそれらを遥かに凌駕した人間種としての強敵であることは認めざるを得ない。 (人って、ここまで強くなれるもんなの……?) 人間が往々にして口にする「強さ」――それとは全く異質のもの。心や感情を真っ向から否定する力ずくの正義。 「とはいえ、私は何もここへ争いに来たわけではありません。ただ、オートマトンだけは彼女に返却願いたい。大変な思い出の品だと聞いています」 「却下だ。それは聞けぬ」 「では、仕方ありませんな……」 第一ウィングの中央でグルゴアとラウバーンが睨み合う。私は彼らの一呼吸ごとに部屋の温度が下がっていくのを肌で感じ取っていた。 |
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